British No.3 Mk I Rod Grenadeについて
2003/01/10 2003/03/01更新 by ぴろいし
excerption from Inert-Ord.net

No.3 Mk Iグレネードをイギリス製エンフィールドNo.1 Mk IIIライフルに装着したところ


 ANHオビ=ワンのライトセイバーの一部に用いられているイギリス製No.3 Mk Iグレネードだが、複製困難な複雑な形状、言うことを聞かないウインドヴェインの固定など、扱っていると様々な疑問が生じる。
 ここでは海外サイトなどの情報を元に、このグレネードについて解説していこうと思う。
 第一次世界大戦中のイギリスにおいて、技師マーティン・ヘイル(Martin Hale)の指導のもと、特に安全性に配慮された複雑な機構を持ったグレネードが製造された。No.3 Mk Iグレネードはその一つで、ライフルに装着し、ガス圧で発射されるものだ。

 このグレネードは、衝撃で激発する雷管(プライマー)を装備している。着弾と同時に慣性で撃針が前方に移動し、プライマーを叩いて発火する。飛行中は弱いテンションのスプリングが撃針を支えている。

 また、撃針はグレネード本体のパイプを貫通している2本のピンによって固定されており、またこれらのピンは羽根のついたいわゆるウインドヴェインと呼ばれるパーツによって保持されているため、発砲しない限り撃発することはない。
 また、ウインドヴェイン自体もその下にある安全ピンを抜き取り、ロッキングスリーブを解除しない限り外れることはない。

 発砲する際、グレネードのロッドは空砲カートリッジを装填したライフル銃に差し込まれ、銃口にツノ状の金具で留められる。安全ピンを抜き、発射されたグレネードは、発射時の慣性によってロッキングスリーブが後方にずれ、ウインドヴェインのロックを解除する。羽根のついたウインドヴェインは、風圧によってネジ溝に沿って回転し、これもまた後方に移動する。射手から安全な距離を移動した後にロックが解除され、着弾して爆発する仕組みだ。

 これゆえ、ANHオビに使われているような、ロッキングスリーブの無い状態のNo.3 Mk Iグレネードのウインドヴェインは、固定されておらずくるくると自由にネジ溝を移動してしまうものなのだ。
 数少ない撮影に使われたANHオビのウインドヴェインを観察してみると、ウインドヴェインの位置が写真によって違っていたりする。実際のプロップも、固定されることのないまま撮影に使われていたのかも知れない。

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excerption from Inert-Ord.net
 No.3 MK Iグレネードは20個のパーツから形成されており、全てのパーツは削り出しかプレス加工によって製造された。これらのパーツの正確な加工をするためには、当時の最新技術が必要であり、多くの時間とコストがかかる品だった。そのためか、1915年1月にはNo.3 Mk Iグレネードの生産は中止され、それ以降のオーダーもキャンセルされた。残ったパーツはウインドヴェインのロックを省いた簡易構造のグレネード製造に流用され、それはNo.20グレネードコンバージョンと呼ばれた(写真左はNo.20 MK IIコンバージョン)。
excerption from The Grenade Recognition Manual by Darryl Lynn

 No.3 Mk Iグレネードには全部で3つのバージョンが確認されている。その中の2つを紹介しよう。上が旧型、下が新型だが、ウインドヴェインの形状が多少異なり、殺傷力を増すためのブロックの形成する溝が、新型の方は若干幅広い。そのためより多くの素材が本体から削り落とされることになる。30gほど新型の方が軽いことから、飛距離を増すための軽量化などの工夫ではないかと言われているが、定かではない。

 ちなみにANHオビは、ウインドヴェインの形状は新型の方であり、本体ブロックの形状は旧型に近い。この、新旧両方の特徴を併せ持ったグレネードは実際に確認されてはいないが、過渡期的製品であった可能性は十分にあると考えられる。on filmに書いてあるように、ANHオビ=ワンには不鮮明な写真資料がわずかに残されているのみであるので、決めつけはできないのだが。
excerption from Inert-Ord.net
 左の図は、数々の過去の軍事兵器(主にグレネード、ロケットランチャーなど炸裂系火器)を研究しているInerd-ord.net管理人Ej氏による、No.3 Mk.Iグレネードの本体ブロックのCADモデルである。

 左右のグレネードは同じ物なのだが、ごらんのように、45度本体を回転させると、縦方向に違ったラインの切削溝が現れる。片方はまっすぐだが、片方は端の方で曲がっているのだ。

 数枚あるANHオビ=ワンの写真から、”曲がっている溝のバージョンがプロップに用いられており、まっすぐな溝のグレネードは違うバージョンである”との説もあったが、それは正しくない。
 どちらのバージョンも、溝の形状は同一であり、見る角度によって変わってくるだけなのだ。
(溝の幅は別として)
excerption from Inert-Ord.net
excerption from Inert-Ord.net
 上の図はEj氏による本体切削の想像図である。本体は削り出し加工で、図のように2つの刃を持ったホイール状の工具によって切削される。2つのホイールが向かい合った内側の面は互いに平行であり、外側の面は斜めになっている。一度の切削で、内側が垂直で外側が斜めになった溝が2本刻まれるわけだ。この行程を、本体を90度回転させながら4回行うと、見る角度によってブロック形状の印象が異なるあの独特のカッティングが生まれるわけだ。
 
 グレネードの頭頂部にある、小さな溝の跡は、行き過ぎたホイールがぶつかって生まれた余計な溝だと思われる。この部分は様々なグレネードによって個体差があるのもうなずける。当時、溝の深さは工具の調整で固定されてたとしても、ホイールの上げ下ろしは人の手で行われていたと考えるのが普通だからだ。
excerption from Inert-Ord.net
 上の二つは、それぞれ45度ずつ回転させた2つのバージョンのグレネードである。左が前期、右が後期バージョンだが、ごらんのように、幅が異なるだけで、同じ形状の溝を持っていることがわかる。
 また、垂直方向の溝と同様に、水平方向の溝も後期の方が幅広い。溝の深さは両者で同じだが、切削ホイールにつけられた角度が、後期の方が大きいために溝は広くなり、その分素材が大きく削られるのだ。

 グレネードの頭頂部の、”余りの溝”にも注意してもらいたい。前期のそれは比較的大きいが、後期バージョンではほんのわずかしかついていない。これは水平方向の溝が広くなったために、頭頂部にホイールを大きく食い込ませなくても切削が終了するからだと思われる。

 Mk3 No.Iグレネードには3つのバージョンがあると書いた。実は全ての溝が左右対称に並んでいる、第3のバージョンがあるのだ。その第3のバージョンのグレネードのウインドヴェインの形状も、プロップの物とは異なる。
 ANHオビ=ワンの写真は、on filmセクションを見ていただくとおわかりいただけるように、不鮮明なものが数点残されているのみである。これまでのMagic of the mythやArt of STARWARS展などの展示状況などから見ても、実物が残っている可能性は極めて低い。よってこれらの乏しい資料から、どういったタイプのグレネードが使用されたのか推察する必要があるのだが、現時点では確定することが出来ない。


Data Source and pictures copyright: Inert-Ord.net and The Grenade Recognition Manual
Thanks for their permission to re-post these excellent material.